大陸の空

秋天の藍を惜しみて仰ぎ見る

めっきり秋らしくなってきた空。
この頃になると、米国に在住していたときに見た空を思い出す。

仕事で初めて米国に赴任したとき、
「大陸の空は広い」
それが初めて見た大陸の空の印象だった。
山国の日本と違い、何もさえぎることなく
地平線のかなたまで果てしなく広がる青空。
それは、新しい地での仕事に、期待と希望が大きく膨らんだ
自分自身の思いとも重なる鮮烈なものだった。
くじけそうになると私は、空を仰いでは、
赴任したときの期待に膨らんだ自分を
思い出して元気をもらっていたような気がする。
そんな希望を抱かせてくれる大陸の空が、ある日を境に変わった。

9月11日。
世界中が驚愕した同時多発テロ勃発の日。
この後、同じ青く広がるアメリカの空であっても、
もう私にとって、それ以前の空と同じではなかった。

あの日、私は、アメリカ現地の学校
(第二言語として日本語を学ぶバイリンガル
プログラムの担任として)に勤務していた。
勤務先の学校は、首都ワシントンDCから車で一時間弱の郊外。
米政府の秘密情報組織であるCIAの情報部も町内。
テロの攻撃を受けたペンタゴン(国防省)も車で30分程度。
といった場所で、いつその事件に巻き込まれてもおかしく
ない条件であった。学校の生徒の保護者の中には、
DCにあるオフィスで仕事をしている人も多かったし、
実際に攻撃を受けた国防省に勤務している人もいた。
こうした中で当日学校がパニックになっていたのも当然だし、
町全体が戒厳令が出ているような異常な状況になっていた。

当日と直後のショックもさることながら、
そしてテロの無差別な残虐な行為に怒りと、
犠牲者と遺族を悼む気持ちは、強く持つけれど、
一つの国がその日を境に変わっていき、
戦争へと進んでいったその姿のほうに、私は不気味なものを感じた。


しばらくは、アメリカ中が犠牲者を悼む気持ちと、
事件の衝撃に重い空気が立ち込めた。
街中に犠牲者を悼む半旗が翻り、DCの空には、
警護のために、軍のヘリコプターが飛びかっていた。
キャピトル(国会議事堂)のまわりは、警備が強化され、
郊外からDCへ向かう主な道路の要所には兵士が、
銃を持って警戒し、異常な雰囲気が漂った。

それが落ち着くと、国全体が愛国ムードで満ち溢れ、
外国人に対して、排他的な扱いがおきるようになる。
ラジオからは、国歌や、愛国の歌のようなものがやたらと
流れてくる。街全体に祭日でないのに連日星条旗が
あふれている。
そんな中、いつしか、アメリカは正義の国で、
悪への報復のための戦争を行わなければならない
という流れになってきた。
同時進行のように、犯人が不明のまま無差別な連続銃殺事件。
テロによる化学兵器の攻撃の可能性ということが
流布されたりする不穏な状態が1年程続いた。
政府から、テロに対する危険度のレベルが
色で表示され、人々は真偽のわからない情報と、
見えないテロにおびえ、警戒は強まる中で、
あらよあらよというまに、アメリカ政府は戦争へと突き進んでいった。

不可解なのは、アメリカ政府が、戦争を開始すると決定するまで、
連日首都のDCでは、戦争反対のデモや集会がおこり、学校の
同僚のアメリカ人の先生や、私の周りにいたアメリカ人からは
「戦争はすべきでない。賢い方法でない」といった声を多く聞き、
アメリカ国内でも反対の動きはかなりあったのに、
戦争が遂行されたということ。

目の前で、戦争へたどりつく過程が繰り広げられるのを見て、
戦争というのは、こんなに簡単に起きていくものなのかということを
実感し、私が学生の頃、ある教授が、おっしゃっていたことを思い出した。
「社会というのは、一度ある方向に流れ出したら
どんなにがんばっても、その流れを変えることはできない。
もし戦争という方向に少しでも流れ出したら、
どんなにそこで反対しても、止めようとしてもそれは、できない。
だから何もないときに、平和なときに
人間は戦争なんかおきないよう努力しておかないと。」

きっと第二次世界大戦が始まる前の日本もそうだったのだろう。
日本の場合、もっと強い勢いで徹底した軍国へと流れ、
反対した人たちがいても
どうすることもできなかったのだろう。
戦争が起きるというのはこういうことなんだと。

大陸の空は、私にとってその日から
以前を懐かしむ思いで眺めるものであったようだ。

「言葉や、文化を学ぶことを通じて、世界の人たちが
もっと理解しあればいいな。」という希望を持って
渡米し、日本語クラスを教えていた私には、
その国が目の前で戦争を起こしたという事実は、
やるせないものであり、心のしこりのようになっている。


帰国して6年たった今。
オバマ大統領になった米国の空は、どうなっているだろう。
あの、以前の私に元気を与えてくれた空になっているかな。
ちょっと見てみたい気がする。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • D.C.P.C/D.C.P.C

    Excerpt: D.C.P.Cについて悩みを解決するには、まずはD.C.P.Cについての正しい知識が必要です。そこで、D.C.P.Cについての情報を集めました! D.C.P.Cについて調べて、D.C.P.. Weblog: なるほどキーワード racked: 2009-09-20 19:18