床山さん

画像
画像
年の瀬。
なんだかあわただしい・・・・
そろそろ、自宅の大掃除らしきことを始めようと書籍類を整理していたら、
毎月送られてくる歌舞伎の友の会雑誌「ほうおう」だの、それといっしょに
ついてくる「歌舞伎美人だより」だのが出てきて、その中に、
私たちも本舞台のときにお世話になる床山の鴨治歳一さんの記事が
あったのでそのページは切りはずし、保存用ファイルへ。

せっかくだから、いつか書こうと思っていた
日本舞踊の舞台を支える方々の中から
床山さんのことだけでも、今年中に書いておくことにした。

床山の鴨治歳一さん。
人間国宝にも指定されている方。
床山とは、かつら屋さんが鬘をかける人に合わせて鬘の土台と
なるところを作る仕事をした後、役に合わせて、髪の毛を
結い上げ、飾りもつけ、劇場で踊り手や、役者さんに鬘をかける
という後半部分を仕上げるお仕事。
歌舞伎や、日本舞踊は、役柄に応じて身分・年齢・職業等からくる
様々な細かい決まりごとがあるので
それに正確にあった髪型に結い上げる
技術を習得するには、気の遠くなるほどの
大変な歳月を要するのだと思う。

私達は、幸せにも人間国宝にも指定されていらっしゃって、
歌舞伎座でお芝居をする一流の役者さんの鬘も手がけて
いらっしゃる床山さんから、鬘の髪を結っていただいて、
かけていただいているのだ。
私の名披露目の「藤娘」のときのきれいな藤の簪のついた
娘の鬘も、その頭の上にのせて、さらに重くなる黒塗りの笠も、
鴨治さんが、やってくださったものだ。

初舞台で、初めて鬘をかけていただいたときの
ことも、今でもはっきりと覚えている。

まず、何よりも、その重さに驚いて、
(ヘルメット3~4つぐらい重ねてつけている感じ)
しばらくの間これで動くなんてありえないと
思ったけれど、同時に、床山さんという仕事の
鮮やかさと細やかさに驚いた。
日本舞踊や歌舞伎の鬘は、その土台を個人個人にあわせた
オーダーメイドで職人さんが作っているので、接着剤など全く使わず、
(テレビの時代劇の場合、鬘がオーダーメイドでないため
装着時には接着剤を使うそうです)
後ろのほうに、つけてある紐一本を後頭部のあたりで
結んでいるだけでぴたっと私の頭にすいつくように
はまっている。重いのは重いけれど、自分の頭に
ぴったりと密着しているので少しも痛くない。
つけている私には、なんら違和感を覚えなくても、
名人の床山さんには、そうでないらしく、鬘をかけた後
前頭部の生え際のあたりが今少し、安定感が
よくないということで半紙のようなものを一枚間に
いれてくださった。確かに前と感覚が違う。
紙一枚ほどの微妙な加減。
「すごい」と思った。

本舞台の直前に鬘をかけていただくとき、
「下浚い(リハーサル)で、塵よけの色が
(江戸時代外出時に女性が頭にのせていたという小さな布)
衣装の着物の色に近すぎて、全体的なバランスとしてピンクが
強すぎる感じになると達也先生がおっしゃったから、
白にちかい薄い色にかえてますからね。」
と説明してくださった。
そんなところまで、最終チェックをするのかと
そういうリクエストを出される先生にも
即座に対応される床山さんにも、
これがプロといわれる方たちの仕事の仕方なのだと
衝撃を受けた。
初舞台で緊張していたせいもあるにしても、私など、
頭についている塵よけの色が何色だったかもいわれるまで
気づいていなかったのだから。


そして、鴨治さんのお人柄。
ほんとうに穏やかで、とても丁寧に対応して
下さることが、これまた印象的だった。
鬘をかけたときに、私たちが踊りやすいように
細心の注意をはらってくださっていることが伝わって
くるので、安心して頭を預けられるという感じ。
きっと、歌舞伎座で役者さん相手に鬘をかける
お仕事をなさっているときも、鴨治さんは、私たちを
相手にされているときも同じようにしていらっしゃる
んだろうなと感じられるそんな接し方だ。
素人の私たちでも、一流のプロの役者さんでも同じように
丁寧に使う人の身になって対応していらっしゃる。
これは、プロに徹した職人の心意気というものかもしれないが、
やはり、お人柄からくるものでもないかな。
名人といわれる域に達している素晴らしい職人さんは、
人徳というのも身につけていらっしゃるんだなと
自然に思える
そういう方だ。

来年の五月、また国立で鴨治さんに鬘をかけていただくのが
楽しみだ。

後継者不足が大きな悩みの種ともいわれる、床山さん。
こうした職人さんがいなければ、歌舞伎や舞踊といった
日本の伝統芸能はやっていけなくなってしまう。
鴨治さんにいつまでもお元気にお仕事をしていただくことを
願うと同時に、少しでも多くの若い人たちが鴨治さんのような
床山職人の弟子入りをして、
後継者となってくれることを心から願っている。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック